キッチンのリフォーム
柳岡克子  和歌山県御坊市
 先日、キッチンをリフォームした。自宅を新築した38年前から毎日使っているキッチン。朝昼夜の家族の食事を支えてくれた。和洋中華何でも母は作ってくれた。煮物、炒め物、揚げ物などを楽しそうに作る母の後ろ姿を見ながら食器をテーブルに並べる。取れたての魚もうまく刺身にする包丁さばきはプロ並みだ。
 家族が健康で毎日そろって台所で食事を囲める幸せをかみしめている。目を離した隙に吹きこぼれたおかいさん(茶粥)、ガスを消し忘れて焦がしてしまった鍋。電話に夢中になって火事になりかけた天ぷら油。誕生日にはご馳走が並ぶ狭い空間だが母のお城。思い出いっぱいのキッチン。
 ある日、母がシンクを汗だくになりながら磨いていた。私は「もうすぐ捨てるのにそんなにきれいにすることないじゃないの?」と言った。「長い間使わせてもらったお礼の気持ちよ」と母は言った。
 リフォームの日が来た。母は取り外されたシンクを寂しそうに眺めながら、新しいキッチンを喜んでいた。業者が帰って家の隣の畑を見た。なんと畑の入り口に捨てたはずのシンクが堂々と君臨していた。「まだ使えそうだったから、ここに置いてもらった」と母は言った。新しい命を吹き込んでシンクは生まれ変わった。これからは、泥のついた大根や芋がきれいになって家族の笑顔が待っているキッチンに運ばれてくるのだろう。シンクの第2の人生のドラマはスタートを切った。