さらば補聴器! ~難病との付き合い方~  
難病患者 柳岡克子
 安倍総理大臣は、8月28日の記者会見で「本年、8月上旬には潰瘍性大腸炎の再発が確認されました。今後新しい薬の継続的な投与を行います。政治においては、病気と治療を抱え、体力が万全でないという苦痛の中、大切な政治判断を誤ること、結果を出せないことがあってはなりません。国民の皆様の負託に自信を持って応えられる状態でなくなった以上、総理大臣の地位にあり続けるべきではないと判断いたしました」として総理大臣の職を辞しました。
第1次政権の引退の時から潰瘍性大腸炎を発病していることは一部マスコミでは報じられていましたが、大きく取り上げられることはありませんでした。今回は引退会見で病名を明らかにされたので全国民に知れ渡ることになりました。
 潰瘍性大腸炎は、平成27年1月1日施行97番として難病指定をされ、若い男性に多く発症する病気で、私は、33歳で発病しました。クローン病と一緒に炎症性腸疾患(IBD)として、長期にわたり消化管に原因不明の炎症や潰瘍を生じ、出血、下痢、体重減少、発熱などのさまざまな症状をおこします。安倍総理の病状についてはわかりませんが、腹痛や下血があることは想像がつきます。
私は45歳の時、大量出血のため、ドクターヘリで和歌山県立医科大学病院へ運ばれ、大腸を全摘しオストメイトになりました。それが功を奏し、以来腹痛も下血もなくQOL(生活の質)は良くなっています。安倍総理は薬で寛解していたようです。しかし大腸を温存している限り大腸がんの危険性もなくなりません。少しの間、代理を立てることも出来たのではないかと私は思いましたが、総理の職を辞するという選択をされたのは、まじめで責任感の強い性格の安倍総理の難病との付き合い方なのでしょう。
 私は、今年の春から、排尿時に痛みが出てきました。あちこちのクリニックで、レントゲン・CT・MRI・エコー・血液・生検など調べてもらいましたが、頻尿となり、痛みがひどくなり日本赤十字和歌山医療センターに入院しました。検査の結果、細菌でもヘルペスなどのウイルスでもなく、結石でもガン(腫瘍)でもないことが分かりホッとしました。しかし平成27年7月1日施行の間質性膀胱炎(指定難病226)という難病ということがわかりました。膀胱水圧拡張術という手術をしましたが原因や治療法が確立されていません。
入院中暇だったので、たまたま耳掃除をしていてやりすぎて出血しました。それで耳鼻科を受診しました。8年前から、平成27年7月1日施行の若年発症型両側性感音難聴(指定難病304)または、急性感音難聴いわゆる突発性難聴と診断され、右の耳が難聴でした。それがいろいろ検査すると骨硬化症という病気だったことがわかり手術すれば治るとのことでした。鼓膜の奥に、つち骨・きぬた骨・あぶみ骨という3つの耳小骨があってそのうちのあぶみ骨が固くなって音の振動を伝えにくくしているのだそうです。それであぶみ骨をくりぬいてテフロンワイヤーピストンというインプラントを埋め込んで神経とつなげることで音が聞こえるようになるとのことです。聴神経は、生きていたのです。
そこで思い切って手術を受けました。退院してテレビを付けると、入院前の設定のままだったボリュームが大きく、こんな大きな音でないと聞こえていなかったのだと手術の成功を喜びました。聞こえにくかったので自然と左耳で受けていた電話の受話器も右耳で受けると補聴器を付けていないのに聞こえたのです。あきらめて3年前から使っていた補聴器が必要なくなりました。こんな奇跡的なこともあるのだと嬉しくてたまりません。大きな病院で検査をしなければ突発性難聴と診断されることが多いそうです。セカンドオピニオンも必要だと思いました。
難病に好かれてしまいましたが、医学は日々進歩していて、良い治療法も見つかるでしょう。宝くじに当たったと思って「有ることが難しい」病気を「有難く」受け入れて「ありがとう」と感謝し、難病も悲観的にならず仲良く付き合っていこうと思います。