七転び八起きの人生 ~聖火ランナーに選ばれて~  
東京2020オリンピック聖火ランナー 柳岡克子
 この度、東京2020オリンピック聖火リレーのプレゼンティングパートナーである日本生命から聖火ランナーに選ばれました。日本コカ・コーラ、トヨタ自動車、日本生命、NTTの4社のスポンサー枠と各都道府県が募集をしていました。
 私は、昭和39年東京オリンピックの年に御坊で産まれました。手足に重度の障害を持ちながらも皆様の支えのおかげで小中高校を御坊で過ごし、神戸の大学を卒業し、薬剤師として仕事をしていた時、障害者卓球と出会いました。広島県で行われた全国身体障害者スポーツ大会で金メダルをもらいました。クラス6の区分で世界大会へも出場するまでになりパラリンピックをめざして練習に励んでいました。アメリカ・台湾・ベルギーの大会では好成績を収め、シドニーのパラリンピックの直前に難病の潰瘍性大腸炎となり、入院しました。度重なる下血のために入退院を繰り返し、ドラッグストアを退職しました。それでも薬を飲みながらパラリンピックへ出場の夢をあきらめずがんばっていたのですが、潰瘍性大腸炎の治療薬がドーピングに引っかかることがわかり引退しました。私が使っていた薬は、TUE(治療使用特例)で事前に申請しておけば大丈夫でしたが、薬剤師なのでもっとドーピングについて勉強しようと思い、スポーツファーマシストの資格を取り、ドーピング防止活動をしています。和歌山県が国体前に全国に先駆けて競技種目ごとに専属スポーツファーマシストを置くことになり、私は卓球競技に配属されました。
 また、入院中は、たくさんの輸血によって助けていただきました。それで献血のありがたさをお伝えするために和歌山県薬務課が取り組んでいる献血推進講演講師として高校などでお話をさせていただいています。私自身は、献血はできませんが骨髄バンクの登録説明員となり、献血バスの横で、白血病などの病気の方のために登録を呼びかける活動もしています。
 10年前、大量の出血により、ドクターヘリで和医大に運ばれ緊急手術となり、大腸を全摘しオストメイトになりました。人工肛門を保有することになり、ショックでしたが命が助かったことを喜ぼうと思いを変えました。現在は御坊市身体障害者福祉協会の会長を退き、公益社団法人日本オストミー協会和歌山県支部の支部長として、和歌山県下のオストメイトの悩みに寄り添いたいとがんばっています。
 七転び八起きの人生で苦労もありましたが、障害を乗り越え、難病にも立ち向かい、決して夢をあきらめず、多くの人の役に立ちたいとがんばっている姿を見てもらうことで、元気になっていただきたいと思って応募しました。日本生命の「家族のために、病気のときに支えてくれた人のために、自分を育ててくれた地元の人のために、苦難を一緒に乗り越えた仲間のために、仕事を通じて出会った人のために、子どもたちのために、様々な想いを乗せて日本中に聖火をつないでいきます」というコンセプトどおりに感謝の気持ちを伝えられたらうれしいです。パラリンピックへの出場の夢がランナーとして参加することができて幸せです。
 五輪の聖火リレーは2020年3月26日に福島県のJヴィレッジを出発し、新国立競技場で開会式がある7月24日までの121日間、延べ53万5717人の応募者の中から選ばれた約1万人の走者でつなぐ予定でした。三重県の熊野市から受け継いだトーチは4月10日、新宮市から和歌山県に入り、12:45~13:10 第4区間の白浜町=しららはまゆう公園~町臨海駐車場前の間(約1.9キロ)のうち200メートルほどを電動車いすで走ることになっていました。
ところが、新型コロナウイルス感染症の予防のため、聖火を灯したランタンを車で巡回する案も出ていました。しかし、一夜にしてオリンピックが延期となり、ギリシアから来た聖火は、福島からスタートはしないけれど来年聖火リレーは行われることになりました。まだまだ七転び八起きの人生は続きますが皆に励みに思ってもらい恩返しにつながるなら、どのような形であってもがんばりたいと思います。