禁煙のすすめ  ~世界禁煙デーにあたって~  
認定禁煙支援薬剤師 柳岡克子
 2019年7月から、昨年成立した改正健康増進法により、段階的に学校・病院・児童福祉施設等、行政機関が原則敷地内禁煙となり、望まない受動喫煙を防止するための取り組みは、マナーからルールへと変わりました。来年4月からはオリンピック・パラリンピックに向けて全面施行となり、事務所、チェーン店などの飲食店等が原則屋内禁煙となります。
 世界保健機関(WHO)は5月31日を「世界禁煙デー」と定めています。5月26日、たばこ問題を考える会・和歌山(中川利彦事務局長)主催で県立和歌山工業高校において「たばこによる健康への問題を考えるフォーラム」が開かれました。産業医科大学の大和浩教授を講師に「受動喫煙防止対策・加熱式たばこについて」と題して講演がありました。利用者が増加しているIQOS、プルームテック・グローの3種類の加熱式たばこについて、臭いの強さや、ニコチンを吸うためのエアロゾルの濃度を比較。紙巻たばこと比べてニコチンの量は変わらないことや特に有害な化学物質が減少しても他の化学物質が増えていること指摘しました。7月26日 、世界保健機関(WHO)は、加熱式たばこについて、有害物質が少ないことが強調されているものの、必ずしも健康上のリスクを軽減させることにはつながらないと指摘し、従来のたばこと同じように規制をするよう呼びかけました。
 6月30日、日赤和歌山医療センターで第254回「全国禁煙アドバイザー育成講習会」が開かれ、全国から禁煙指導者・医療従事者など約200名が参加しました。そこで私は、認定試験を受けて合格し、日本禁煙科学会(高橋裕子理事長)認定の初級禁煙支援士の資格を取得しました。「日本禁煙科学会」は2006年聖路加国際病院の日野原重明名誉院長が禁煙の重要性を社会にアピールするため設立しました。禁煙を科学的に研究し子どもたちをたばこの害から守り、たばこのない健康な社会、クリーンな環境の実現していくことを目的にしています。
 たばこを吸わない人が、他の人のたばこの煙を吸い込んでしまうことを「受動喫煙」と言います。受動喫煙があると、吸っていないのに体内からたばこの煙の有害物質が検出されます。たばこの先から出る煙のことを副流煙と言います。吸っている人の煙より有害物質は多く含まれています。副流煙には、ニコチン・一酸化炭素・アンモニア・ホルムアルデヒドなど200種類以上の心臓や呼吸器に良くない物質や発がん性物質が含まれています。目やのどが痛くなったり心拍数が上がったり、血の循環が悪くなったりします。長く受動喫煙をしていると虚血性心疾患や慢性閉塞性肺疾患・脳卒中・歯周病・ガンなどを発症する危険性が高くなります。また、妊婦なら流産や胎児への影響もあります。
 三次喫煙(サードハンドスモーク)は、たばこの火が消された後も残留する化学物質を吸入することをいいます。三次喫煙は、わずかなたばこの残留物質でも部屋で過ごす時間が長い乳幼児などでは、受動喫煙以上の悪影響があります。有害物質は、喫煙者の毛髪や衣類、部屋の壁や自動車のソファやカーペット、カーテンなどの表面に付着して残留し、それが反応、再放散したものが汚染源になり、三次喫煙が発生すると考えられています。
 たばこをやめられないという人は、「ニコチン依存症」という、治療が必要な病気として禁煙外来で治療を受けることができます。保険適用には、ニコチン依存度診断テスト5点以上やブリンクマン指数(1日の本数×喫煙年数)が200以上などの要件がありますが禁煙したいと思っているなら、12週間で5回の保険適用で自己負担がだいたい13,000~30,000円ぐらい禁煙外来のできる医療機関で治療してもらえます。保険診療で使える禁煙補助薬として、貼り薬のニコチンパッチとニコチンを含まない飲み薬のバレニクリンがあります。これらの薬剤はいずれもニコチン離脱症状を抑制することで禁煙しやすくなります。また一般医療用医薬品として、ニコチンガムとニコチンパッチが薬局・薬店において市販されています。
 禁煙を成功させるには、家族や友人、禁煙に成功した人などサポートしてくれる人の協力も大切です。吸いたくなったら、深呼吸したり、体を動かしたりして、たばこ以外のことに目を向けましょう。その他に冷たい水や氷、熱いお茶、清涼タブレット菓子、シュガーレスガム、昆布、歯ブラシなどを使って気を紛らわしましょう。「健康のため」「子どものため」「節約のため」など、禁煙したい目的を決めましょう。成功を祈ります。