災害時のストーマ装具の備蓄について  ~和歌山県初の取り組み~  
公益社団法人日本オストミー協会和歌山県支部 支部長 柳岡克子
 平成30年9月26日、私が支部長をしている公益社団法人日本オストミー協会和歌山県支部は御坊市とオストメイトの皆様が災害時にストーマ装具の不足による不安解消を図るため、ストーマ装具の備蓄保管制度について、覚書を締結しました。この制度は、災害時に備え、あらかじめオストメイトの皆様が使用するストーマ装具を御坊市が指定する備蓄場所に保管しておく制度です。
 10月15日、御坊市はオストメイトに対して説明会を開催しました。まず御坊市の健康福祉課から説明がありました。御坊市では、御坊小学校、湯川中学校、藤田小学校、野口小学校、河南中学校、名田中学校の6か所の防災倉庫の一角に段ボールの保管場所を提供します。年に1回、市の職員が備蓄保管品の新旧受け渡し作業をします。オストメイトはあらかじめ自分の使用しているストーマ装具を保管依頼申請書と同意書と保管物一覧表を市役所に持参すれば希望の保管場所に保管してくれます。申請は本人でなくても可能です。ストーマ装具には使用期限がありますが途中の交換や品質の保証はできません。
 その後、私が公益社団法人日本オストミー協会和歌山県支部長として、この制度のメリットをお話ししました。
オストメイトとは、手術により人工的に肛門や膀胱を造設している人のことで、この人工肛門や人工膀胱を総称してストーマと言います。日常生活においては、大腸または膀胱からの排泄物を管理するため、ストーマ装具(人工肛門や人工膀胱に装着する装具)を身につけています。ストーマ装具は、粘着力のある肌に優しいガムテープのようなもので袋がついています。だいたい2~4日の耐用期間ではずれます。汗をかくと短くなり夏場は厳しいです。
 災害はいつどこで起こるかわかりません。自宅には避難袋と一緒にストーマ装具を入れたリュックサックを準備していますが、持ち出せなかったらと思うと不安になります。なぜなら人間は生きている限り、絶えず出続ける大便も小便も止めることができないからです。普通なら少しの時間は我慢することができます。しかし、ストーマ装具がなければ垂れ流し状態となりたちまち困ってしまいます。
 自宅に取りに帰れないぐらいの災害で被災したと仮定しましょう。何とか避難所にたどり着いたとして、電話がつながりません。もし業者に電話がつながったとしてもストーマ装具は、その人のストーマの大きさに合わしているので、自分のストーマ装具の種類や製品番号などを聞かれても答えられないでしょう。業者は電気が止まってパソコンが開けなければデータがわかりません。もし何かにメモしていたとして、発注をかけるとしても業者に在庫がなく、業者も被災しているかもしれません。製造業者に問い合わせたところで、電車が動かない、高速道路が寸断されているなど輸送が機能しないのではないかと考えられます。もし在庫があったとしても避難所に配達してくれる人がいません。業者も市役所の職員も災害時にはそれどころではないでしょう。オストメイトにとっては深刻な問題でも命にかかわる方の救助が優先されるべきです。そのような想定したくないことが起こった場合、避難所に自分のストーマ装具を備蓄していたらすぐに装着できるのです。このようなメリットを説明させていただきました。その後、業者からストーマ装具の寿命や取り扱いの注意点などを聞き、皮膚・排泄ケア認定看護師から、水が出ないことを想定して剥離剤や濡れティッシュ、ナイロン袋やはさみなども一緒に入れておくのがよいとの説明がありました。
 御坊市の取り組みは全国的にも珍しく、和歌山県では初めての取り組みとなります。市町村によってはストーマ装具の備蓄があるというところもありますが、個人ごとに違ったストーマ装具を全員分、市役所の倉庫に保管することは、場所の確保も難しいし、毎年廃棄するなど費用面においても厳しいでしょう。災害時、市役所に保管してくれていたとしても遠い方は取りに行けません。行けたとしても自分のストーマに合うのを探すのに大混乱になるでしょう。
 私たちオストメイトは、市町村から日常生活用具給付事業として、定期的にストーマ装具の給付を受けています。「備えあれば憂いなし」ということで災害時に備えて、自分のストーマ装具を少しでも備蓄用として残しておき、近くの避難所に保管してもらうのが安心です。私はこのアイデアを思いついたとき、市町村に費用負担をかけずに保管場所を提供していただくだけでいいので理解が得やすいと思いました。そして全国に広げてオストメイトが安心して日々の暮らしができるようになればいいと思いました。公益社団法人日本オストミー協会和歌山県支部は会員を募集していますが、この制度は会員でなくても利用できます。お問い合せ(090-8219-0198柳岡)