新しい足  ~「夜明けのエッセー」掲載にあたって~  
エッセイスト 柳岡克子
 産経新聞、8月8日の夕刊の「夕焼けエッセー」と9日の朝刊の「夜明けのエッセー」とウェブサイト産経WESTに私の書いたコラムが掲載されました。
 平成28年5月の「うどんのネギ」と今年1月の「父母のメール」に続いて今回で3回目となります。今までは家族ネタで楽しい父母のことを書いてきましたが、今回初めて自分のことを書きました。私が障害者であることは、地域の方ならご存知のことと思いますが、障害をネタにしたくないというこだわりがあり、普通のエピソードで全国紙の1面に掲載してもらえるかどうか試したかったのです。
 今回は、自分のことなのでおもしろいエピソードではありませんが掲載してもらえてうれしいです。18歳の頃の思い出を講演でお話ししているそのままを書きました。苦労とは思いませんが、大学に進学するために必要に迫られた必死の思いの中でのチャレンジでした。自転車に乗れないことで悔しい思いをした中学時代にいつか車の運転ができるようになりたいという夢の実現でもありました。
 私が、様々な場所に行き活動しているのは知ってくれていても、車いすで出会う方の中には、誰かに送ってもらってそこに来たのだと思っている方が多いです。足の不自由な人に運転などできるわけがないという考え方が潜在的にあって、帰りがけに「お迎えの方は?」と聞かれた事は何度もあります。「いえ、自分で」というと不思議な顔をされるので「運転してきました」と言うと驚いたような顔をして「ほー」と。手動式の車の運転免許を取れることを知らなかった35年前の私もそうでしたから、今も知らない方がいるのなら知ってもらいたいという気持ちになりました。特に、病気や障害のある人が運転することに規制をかけられそうな風潮も出てきて、事故防止のためわからなくもないですが安全運転をしている障害者がいることも知っていただきたかったのです。
掲載の産経新聞は近畿圏に配達されているらしく、お会いした方から「読んだよ」と声をかけていただいただけでなく、遠くの方からFacebookやLINEにメッセージをいただいたり、電話やメール、お手紙をくださいました。
 以下原稿です。ぜひご覧ください。

新しい足
 12年間連れ添った車とお別れすることになった。今年に入って、あちこち故障しだしてとうとうクーラーが効かなくなってこの暑い夏を乗り越える事が出来なくて14万キロメートル程走ってくれた愛車を手放すことになった。
 生まれつき重度の障害を持ちほとんど歩けず、車いすで生活している私が、高校を卒業し大学へ進学するにあたって、手動式の車の運転免許を取った。オートマチックの車を買って手動式の装置を取り付けて、自動車学校に持ち込んで専属の先生の指導を受け、合格した。左手には、押したらブレーキ、引いたらアクセルが動く装置だ。ハンドルにはレバーが付いていて、右手で回す。
 それからは、寮から大学まで特別に自家用車での通学を許可してもらい、長い休みには神戸から運転して帰省した。卒業後は、通勤や買い物に使ったり、入院中以外は乗らない日がないぐらい毎日運転した。無事故無違反で表彰してもらったこともあるほど安全運転を心掛けている。
 18歳から車に乗っているので何度か買い換えたが、12年も長く私の足となってくれた車は他になく色々な思い出が詰まっている。友達を乗せてあげた時「障害者に世話になるなんて」と言われたが「障害があっても人の役に立ててうれしいよ」と。
 ほとんど歩けない私があちこち行けるのも車のおかげ。これからは新しい足と仲良くやっていきたい。新しい足は、どんな未知の世界に私を運んでくれるだろうか?