岡山刑務所を見学して  
御坊市社会福祉協議会 生活福祉資金貸付調査委員 柳岡克子
 7月7日、岡山刑務所(敷地面積96,824m2)を見学しました。刑務所は、刑事施設と呼ばれ受刑者を収容し刑の執行を通じて社会への円滑な復帰など社会適応性を実現するための施設です。そのために犯罪の責任を自覚させ、立ち直りの意欲を喚起し、社会生活に適応する力を身につけさせるため「矯正指導」を行っています。
 岡山刑務所は、初犯で懲役10年以上の男性(LA)約500人を収容しています。1995年に514人でしたが、2006年の860人をピークにその後は東北の震災やオリンピック関連の仕事が増え犯罪に走る人は減っています。収容者のうち半分が無期懲役で、98パーセントが殺人、傷害致死、強盗殺人、放火、性犯罪など生命に関する犯罪です。裁判員制度の導入などで被害者感情を尊重した近年の厳罰化の影響でさらに刑期が延び、60歳以上が占める割合は約3割で、平均年齢52歳、最高齢82歳の方は無期懲役なので出られないでしょう。短期施設より受刑者が高齢化する傾向にあります。また、高齢者の殺人や強盗が増えているのも高齢化に拍車を掛けています。受刑者の高齢化が進んで慣れない介護が増え、業務の負担は重くなっています。介護態勢の拡充に向け、今いる看護師資格の取得者(約10人)に加え、介護士、理学療法士などの資格を持つ刑務官の配置もめざしています。
 有期刑の最高は30年で仮釈放が認められたケースもありますが、無期懲役の人は30年以上服役して初めて仮釈放が認められています。しかし、誰も身元引受人になってくれなかったり、服役中に家族がみんな死んでしまって身元引受人がいなくなったりして、仮釈放で出所しても生活の目途が立たないため、結局、仮釈放がほとんど認められていないのが実情です。
矯正指導は、国家公務員である刑務官や教育専門官、調査専門官など約200人の職員で実施しています。外部の社会福祉士やキャリアカウンセラー等の資格をもった専門スタッフの協力も得ています。矯正指導には、改善指導、教育指導、刑執行開始時の指導、釈放前指導があります。改善指導には、必要な知識や生活態度を習得させるための一般改善指導と円滑な社会復帰に支障をきたす受刑者の個別事情を改善するための特別改善指導があります。特別改善指導には薬物依存離脱指導、暴力団離脱指導、性犯罪再犯防止指導、被害者の視点を取り入れた教育、交通安全指導、就労支援指導があります。2020年の東京オリンピックを目前にして政府一丸となって「安心安全の国日本」というスローガンの基に刑務所出所者が再犯を起こさないために再犯率を2割減らす目標を閣議決定したことで特に就労支援指導に力を入れています。就労先で人間関係を円滑に保つ心構えや行動様式、トラブルを解決するための対処方法、就労に必要な基礎知識や技能の修得や出所後の住まいと仕事を確保するためハローワークや地域生活定着支援センター、保護観察所、更生保護施設などと連携して円滑な社会復帰をめざしています。
 刑務所では、懲役囚に1日8時間の刑務作業が課されます。刑務作業は、刑の執行であるとともに、受刑者の勤労意欲を高め、職業上有用な知識及び技能を付与することなどを目的に実施されています。公益財団法人矯正協会刑務作業協力事業部は、必要な原材料を提供し出来上がったものを「キャピック商品」として販売することによって国に協力しています。売上金の一部は、犯罪被害者支援団体の活動に寄付されます。作品は全国の刑務所で行われている矯正展やホームページからインターネットで購入できます。長期の受刑者が多い岡山刑務所では、その技術がとても熟練したものになっています。熟練工になると作業報奨金(平均月8,000円のところ熟練工は数万円)の金額も増え、そのお金を積み立てて被害者や遺族に送金している人もいるそうです。岡山では「備前焼」がブランドですが、岡山刑務所でも「備前焼」が作られていて、受刑者の中に備前焼職人がいます。その他木工、印刷、金属加工などの生産作業や調理、洗濯、清掃などの自営作業があります。職業訓練として建築塗装、フォークリフト運転、農業園芸等を修得できます。
 部屋は3畳ぐらいでトイレが付いていて、定員は1名の単独室と6名の共同室があります。生活は規則正しく朝は6時35分に起床、21時に就寝します。その中で決まった量の食事(主食1300kcal、副食1020kcal)や時間通りの入浴をします。岡山刑務所では2008年から順次、高齢者がヨガ(年2回)やストレッチ・トレーニング(月2回)に励む健康講座を導入しています。出所後の健康や体力づくりのための筋力トレーニングをしたり、球技大会や囲碁・将棋大会、カラオケ大会などの余暇活動もあり、テレビ・ラジオ視聴、図書閲覧、宗教教誨、慰問演芸などもできます。医療機関の診察もできます。
 刑務所では階段が多く私も移動にはお世話になりましたが、受刑者の生活棟の大半は築後 50年近く、手すりなどバリアフリー化が不十分でした。今後、施設の改修も課題にあげています。
 和歌山市の四箇郷に女子刑務所がありますが機会がなく、刑務所の見学は初めてでした。撮影や録音は禁止でしたが、作業しているすぐ近くまで行けました。熱心に作業している様子から凶悪犯には見えませんでした。長い刑期を終え円滑な社会復帰を望みます。今まで関心のなかった分野ですが、この研修を終えて、作品の購入などわずかでも協力したいと思いました。