日本版CCRCの導入にあたって 〜シェア金沢を見学して〜
御坊市社会福祉協議会 生活福祉資金貸付調査委員 柳岡克子
 7月9日・10日、御坊市社会福祉協議会理事・監事・心配ごと相談員・生活福祉資金貸付調査委員の研修として、社会福祉法人佛子園がまちづくりに取り組んでいる「シェア金沢」を見学しました。
人口減少および少子高齢化が進む日本では、政府主導のもと「日本版CCRC」を導入する機運が高まっています。CCRCとはアメリカで発展した「Continuing Care Retirement Community」の略称で高齢者が健康なうちに入居し、必要に応じて介護や医療のサービスを受けながら、人生最期の時までを過ごせる生活共同体のことです。アメリカでは約2000カ所にCCRCがあり、居住者数は推定75万人に上っています。そこでは生涯学習や積極的な社会参加、多世代交流を通じ、自分たちの世界だけに閉じないコミュニティづくりが推進されています。
日本では、地方自治体が中心となって、CCRCを参考にした取り組みを進めているほか、2014年12月に安倍政権が閣議決定した「まち・ひと・しごと創生総合戦略」では、日本版CCRCの創設を検討することが盛り込まれまれたことによって、2015年2月に「日本版CCRC構想有識者会議」が発足しました。
日本版CCRC構想有識者会議では、素案として基本コンセプトは「健康な段階から入居し、できる限り健康長寿を目指すこと」で、高齢者をサービスの受け手でなく、地域の仕事や社会活動などに積極的に参加する「主体的な存在」として位置付け、高齢者が地域社会に溶け込み、地元住民や子ども、若者などの多世代と交流・共働する「オープン型」の居住を目指しています。 そのための基本コンセプトとして、「高齢者の地方移住支援」「シニアライフを通じて何がしたいかの目標志向型プラン」「地域に居住しながら介護サービスが受けられる継続的ケア」「地域社会(多世代)との共働」「IT活用などによる効率的なサービス提供」「居住者の参画などによる透明な事業運営」「地方創生特区や地域再生計画を活用した政策支援」の7項目を盛り込みました。
 取組の先駆けとして2013年9月から導入し、年間約20万人もの視察があり4月に安倍総理も訪れたという「シェア金沢」を見学しました。社会福祉法人佛子園が運営するシェア金沢(総面積:約11,000坪、石川県金沢市)は国立病院の跡地で、都市部からの移住者も含め、健康な高齢者がサービス付き高齢者向け住宅に居住し、障害児入所施設もあり、学生向け住宅、レストラン、デイサービス、天然温泉、農園、共同売店などが「ごちゃまぜ」に点在し、ボランティア・農作業・多世代交流・住民自治等を行っています。また、ケアが必要になった場合には、医療との連携もあり併設事業所等から介護等のサービスを受けることができます。そこには、かつてあったよき地域コミュニティが存在し、学生・高齢者・障害者・子ども・外国人など誰もが分け隔てなく、共に手を携え、生活している場がありました。大学生がボランティア活動をすることを条件に家賃が安くなるなど画期的なアイデアを取り入れています。
 日蓮宗行善寺住職、故・雄谷本英氏(初代理事長)が宗教誌の販売をしながら戦災孤児や障害児など行き場のなくなった子どもたちを庫裏に引き取ったことから始まりました。昭和35年、障害児施設として「佛子園」を設立し、社会福祉法人となりました。その後シェア金沢をはじめたくさんの施設が出来ました。能登町にクラフトビール工場「日本海倶楽部」やレストランを作り障害者の就労支援をしています。その中で小松市野田町に2004年に後継者不在のため廃寺となり荒れ果てていた西圓寺を譲り受け自分たちで整備し、高齢者・障害者の福祉施設として再利用した「三草二木 西圓寺」は、地元住民と高齢者たちが交流を深める地域コミュニティセンターとしての役割をしています。福祉の拠点(高齢者デイサービス・障がい者の生活介護)でもあり、働く場(ワークシェア・就労継続支援B型施設)の機能も備え、「西圓寺温泉」という「みんなが集える4つの機能」として様々な施設が融合しており、地域の方々が気軽に立ち寄ることのできる場所としてライブが行われたり、住人同士が分け隔てなく、ともに支え合い、暮らしを営むための「よりどころ」となっています。
 都会の高齢者を田舎で受け入れることに抵抗もあり、日本版CCRCの導入にあたって前向きな自治体は1割程度です。しかし晩年は自然豊かな田舎暮らしを希望している人も増えています。立地は市町村レベルでは「タウン型」地区レベルでは「エリア型」単体施設では「施設型」がイメージされており地域のつながりから考えると日高圏域では「エリア型」が規模として可能ではないかと思われます。運営主体は民間主導、社会福祉法人主導、市町村主導もあれば、連携拠点も大学連携型、病院連携型など多様なモデルがあります。ここはしっかり研究して地域の活性化につながる施策として取り組んでみてはいかがでしょう。団塊の世代が高齢者となっても、生きがいを持ってアクティブに生活することにより介護予防につながり医療費削減はもとより、世代間交流によって街が活性化し雇用が生まれ、人口減少もストップするのです。