8、不良の美学
 しかし、中学生になると、思春期に入り、自分の体についてあらためて考えてみた時、頭ではがんばろうと思っていても、悲しくなることもあった。当時、非行で問題となっていた中学校だけに、やんちゃな子が多く、いじめや暴力事件もよく見かけた。先生方の私に対する親切がかえってやんちゃな連中からは私ばかりが先生に可愛がられているとうつった。そして「柳岡、ちょっと来い」と言われた。私はもう怖くって、いじめられるのじゃないかと思った。「柳岡、おまえは足が悪いから先生にひいきされている。なめんなよ。むかつく」と言われた。先生からの優しい言葉は、今ならありがたいと思うが、あの頃の私は「特別扱いしないで」と言いたかった。
 しかし、当時の不良には「不良の美学」があった。柔道や剣道や空手などをしている強そうな人を相手に戦って勝てば格好良かった。だが私のように、ちょっと突いただけで、こけそうなひょろひょろした弱い者を相手にいじめても格好良くない。不良としては「柳岡に勝ったぞ!」って自慢できるものではない。だからやんちゃな連中は私に指一本触れず暴力を受けるようなことはなかった。手加減というものを知っている世代だった。幸い女の子だったから口だけで済んだが男の子だったら危害を加えられたかもしれない。