上がる年金頭打ち 〜マクロ経済スライド適用〜
年金アドバイザー 柳岡克子
 総務省から、1月30 日、「平成26 年平均の全国消費者物価指数」が公表されました。この結果、平成27 年度の年金額は、平成26 年度の年金額との比較では、特例水準の段階的な解消やマクロ経済スライドによる調整と合わせて、基本的には0.9%の引上げとなります。
 平成27年度の年金額は、物価変動率と名目手取り賃金変動率によって決まります。名目手取り賃金変動率(2.3%)=平成26年度の物価変動率(2.7%)×平成23〜25年度の平均の実質賃金変動率(▲0.2%)×平成24年度の可処分所得割合変化率(▲0.2%)で計算します。
 ここで2つのマイナス要因があります。1つは、特例水準の解消です。 「年金は、賃金や物価が上がったら上がる、下がったら下がる」これが基本原則です。ところが、平成25 年9月分までの年金は、平成12 年度から14 年度にかけて、物価下落にもかかわらず、特例法でマイナスの物価スライドを行わず年金額を据え置いたことなどにより、本来の年金額(平成16年法改正時点での老齢基礎年金の満額は、780,900円)より2.5%高い水準(特例水準)で支払われていました。そこで平成24年に成立した法律により、特例水準の計画的な解消を図ることが定められました。3年かけて本則の水準にそろえるため、本来水準の年金額との差である2.5%の解消スケジュールは、強制的に平成25年10月から▲1.0%、H26年4月から▲1.0%(ただし、本則の年金水準が0.3%上がったので、物価スライド特例による年金額は0.7%に)27年4月から▲0.5%となっており、27年4月以降は完全に特例水準が解消されます。この特例水準の解消の最後▲0.5%が今回かかります。
 もう一つは、平成16年の年金制度改正で、長期的な給付と負担の均衡を図る仕組み(マクロ経済スライド)が導入されたことです。この仕組みは特例水準を解消した後に発動することになっています。今回最期の特例水準の解消が行われたことによってマクロ経済スライドによる給付水準の調整を開始することになります。これは、物価が上がっても同じように年金も上がるシステムではなく、現役被保険者の減少と平均余命の伸びに基づいて「スライド調整率」が設定され、その分を賃金や物価の変動により算出される改定率から控除するものです。平成27年度のスライド調整率(▲0.9%)=平成23〜25 年度の平均の公的年金被保険者数の変動率(▲0.6%)×平均余命の伸び率(▲0.3%)で計算します。要するに、いくら賃金や物価が上がったからといって掛け金を払う人が減ったり長生きする人が増えたら、年金額の上げ率を頭打ちするということです。結局、名目手取り賃金変動率(2.3%)×特例水準の解消の最後▲5%×平成27年度のスライド調整率(▲0.9%)=0.9%が前年度より上がる年金となります。月額にして平成26年度の64,400 円より608円多い65,008 円となります。受給者の受取額が変わるのは、通常4月分の年金が支払われる6月からです。
このように2015年4月からマクロ経済スライド制が初めて適用され、公的年金を受取る全ての人の受給額が抑制されることになりました。まあこの制度と抱き合わせに将来の保険料の固定することも決まりましたので、今のところは毎年上がっていますが厚生年金保険料率について、保険料の水準を2017年度まで段階的に18.3%まで引き上げた後は将来にわたり固定。国民年金は2017年度以降、2004年度価 格16,900円で固定されるのでもうすぐ掛け金については国はこれ以上取れなくなるのです。ですから国からの支払いの方を減らしていかなければ財政がもたないのです。
物価変動スライドであれば、受け取る年金額は、物価上昇に伴い増加しますので、物価が上がり支出が増えても、受給する年金も増えるため、収入と支出のバランスが合います。しかし、マクロ経済スライドでは、物価が上昇しても、受給額を抑制する仕組みとなるため、支出は増えるけど、収入は少ししか増えないということになり、実質的な減額となります。ということで今回平成27年度の年金額が上がったからといって、それほど喜ばしいことになっていないのです。しかも、消費税が10%に上がるとなると、物価が上がると消費税もたくさん払わなければならないし、年金はそれに見合うほど上がらないということになります。
 ではどうすればいいかについては、参考までに。・20才以上60才未満の厚生年金加入者が加入できる確定拠出年金に加入する・60才から65才まで国民年金に任意加入する・厚生年金は70才まで加入者となれるので長く働く・年金受給時期を1ヶ月遅らせることで0.7%ずつ受給額が増額するので受給を70才にすることで、最大の42%増額可能・厚生年金保険料をたくさん納められるように給料の多い会社で働く・国民年金保険料に月々400円の付加保険料を追加で支払うと、毎月の200円の付加年金が増える・国民年金の上乗せ年金として国民年金基金に加入する・国民年金保険料を節約するため前納で支払う・保険料をクレジットカードで支払いポイントでメリットを得る・所得税で上限4万円まで、住民税で上限2.8万円まで個人年金保険料控除がある民間の個人年金に入る。などがあります。