ドーピングをなくそう
公認スポーツファーマシスト 柳岡克子
 2015(平成27)年、9月26日から、第70回国民体育大会と10月24日から第15回全校障害者スポーツ大会が和歌山県で開かれます。私は、1996年、広島県で開かれた第32回全国身体障害者スポーツ大会に卓球競技と陸上競技のこん棒投げで出場しどちらも金メダルをいただきました。その後、世界大会にも出場できるようになり、いい成績を収めた選手からドーピングの検査を受けた話を耳にするようになりました。私は、シドニーパラリンピックの直前に体調を崩し、服用していた薬がドーピング禁止物質であったため引退しました。ドーピングについてもっと勉強しておけば申請により治療のためならば除外措置がある薬だったのです。そこで、私のように知らなかったために選手生命を絶たれたりすることのないように、薬剤師なのだからもっと勉強して、スポーツの発展のため役に立ちたいと思いました。
 和歌山県薬剤師会では、ドーピングに関する問い合わせの対応や、競技者の医薬品の管理を行い、医薬品の適正使用に関する知識の普及に努めるとともに、学校や地域の保健活動において薬物乱用防止活動を行うスポーツファーマシストを養成しており、私は先日「公認スポーツファーマシスト」として認定されました。2009年から認定を開始し、現在和歌山県では54名の薬剤師が認定されています。
 1999年、国際レベルのあらゆるスポーツにおけるアンチドーピング活動を促進し、調整することを目的として世界アンチ・ドーピング機構(WADA:World Anti-Doping Agency)が設立されました。2001年、日本でも世界標準のアンチドーピング活動のマネジメントを行う機関として日本アンチ・ドーピング機構(JADA:Japan Anti-Doping Agency)が設立されました。障害者も含め国際レベルの競技大会だけではなく、国民体育大会をはじめとする国内大会やジュニア大会にいたるまで、ドーピングに関する情報提供や指導を積極的に実施するとともに、スポーツ関連の医事関係団体に対しても啓発活動を実施しています。
 ドーピングとは、競技力を高めるために薬物などを使用したり、それらの使用を隠したりする行為で、スポーツでは厳しく禁止されています。どういう行為が該当するかは世界ドーピング防止規程(WADA 規程)に定められており、わざとであっても、不注意であっても制裁の対象になるのです。ドーピングは、社会的信用を失い、深刻な健康被害を引き起こすなどの悪影響だけでなく、スポーツそのものの価値が失なわれてしまうという非常に大きな被害をスポーツに引き起こします。スポーツは一定のルールのもとで選手が公平に正々堂々と競い合うのが前提です。競技者だけでなく、多くの人が関わることによって成立しているのもスポーツです。ドーピングはフェアプレイの精神に反し、支えてくれている全ての人たちをも裏切る行為なのです。WADA の禁止表に定められている物質と方法は、1.常に禁止される物質と方法2.競技会において禁止される物質と方法3.特定の競技において禁止される物質の3つに分類されています。
 ドーピング検査には、競技会で行う競技会検査、競技者から居住地・宿泊地、トレーニング場所など提供された居場所情報をもとに実施する競技会外検査があります。市販の総合感冒薬や鼻炎の薬などにも禁止物質は含まれています。また、サプリメントは原材料を全て表示する義務がないため、禁止物質が含まれている可能性があります。禁止物質はさまざまな副作用が生じます。たとえば、禁止物質のひとつ「タンパク同化薬(筋肉増強剤)」であれば、肝臓機能障害、男性の女性化、女性の男性化、精神不安定など、身体や精神に深刻な被害を引き起こします。
 検査は、アスリートの尿や血液を検体として採取します。検査を拒否するとドーピング防止規則違反となる可能性があります。治療の目的で禁止物質・禁止方法を用いる必要がある場合は、「治療目的使用に係る除外措置」(TUE)を大会の30日前までに申請することによって国際競技連盟やJADA のTUE 委員会で審査・承認されて、用いることが可能になります。TUE が認められるには、次の条件を満たすことが必要です。1.治療上使わざるを得ない(使用しないと健康上の重大な障害を及ぼすことが予想される)。2.他に代えられる治療方法がない。3.治療上使用した結果、健康に戻る以上には競技力を向上させない。また、緊急治療や急性病状の治療によって禁止物質・禁止方法を用いた場合には、TUE の事後申請が可能です。
 和歌山県薬剤師会の薬事情報センターでは、クリーンな国体をめざしドーピングに関するご質問を受付けています。競技会等に参加される方で服用中の薬がある場合は「ひとりで悩まずに電話かFAXにて相談して下さい」と呼びかけています。≪問合せ先≫和歌山県薬剤師会 薬事情報センターTEL 073-433-0166 FAX 073-424-3353  参照 公益財団法人日本アンチ・ドーピング機構発行「ドーピング防止ガイドブック」