受験シーズン真っただ中 〜中高一貫か小中一貫か〜
総合学習センター柳岡塾 塾長 柳岡克子
 いよいよ受験シーズンも追い込みの時期がきました。大学入試はセンター試験も終わり、私学は本試験が始まっています。3月に入ると高校入試です。わが塾は高校入試を専門にしていますので、毎年のことながら直前対策や体調管理など生徒以上に神経をすり減らして緊張しています。保護者との面談で3年生のお子様の相談を受けていますと、下の子どもに中高一貫教育の学校を受験させたらいいのかどうかで悩んでいるということでした。日高高校附属中学校は3年前に始まったばかりで今春はじめて入試を受けずに高校部に進級するので実態の把握はできていません。
 中高一貫教育が良いとされている理由については、6年間の計画的で継続した指導により個性や能力を伸ばし、優れた才能を発見できるとしています。また、異年齢集団の交流により社会性や豊かな人間性を育成できるとしています。「15歳の春を悲しませないように」と高校入試がないのも人気の理由です。和歌山県下の公立では平成16年度からの向陽を皮切りに桐蔭・橋本・日高・田辺の5校が地域性を考慮して中高一貫教育を実施しています。
 しかし、大学合格を目標に優秀な生徒を青田買いして、私立高校へ流れないようエリート養成校みたいだと問題点も指摘されています。今までならクラスのリーダー的存在となる生徒がいなくなることも考えられ学級運営にも支障をきたすでしょう。少子化の影響で生徒数が減っているにもかかわらず地元の中学校へ進学せず中高一貫校へ生徒が流れていくのはいかがなものか。地元の中学校へ行かないとなるとふるさと意識も薄れ、御坊市で年2回行っている「見守りネットワーク」など地域の住民とのコミュニケーションもなくなってしまいます。また、小学6年生に適性検査を受けさせるのですから受験競争が低年齢化します。先日日高高校附属中学の適性試験の問題をやってみましたが、プロの受験指導者の私でさえ小学6年生にここまで思考させるのかと驚いたものです。詰め込みによる記憶を問う問題ではなく柔軟な頭脳が必要で、12年間の生活や体験・読書量などが影響を与えます。たった12年の人生でこれから先の進路を決めてしまっていいものかどうか。心身の発達の差異が大きい6年間を同じ学校で過ごすのは選択の幅をせばめはしないかどうか。
 私は、高校入試は15歳にとって人生の大きなチャレンジの機会だと考えます。自分の将来を真剣に見つめ、自分の能力を発揮できる高校を自分で選択する絶好の機会です。がんばればがんばっただけの答えが返ってきます。能力に応じた高校や専修学校が段階的に受け皿となっていれば受験勉強をさせることは大きな意義があると思います。
 そんな議論のさなか、和歌山県では公立の7つの中学校が小中一貫教育をしています。小中一貫教育とは、小学校と中学校の教員が9年間の一貫した指導を行うことにより、中学校入学時の環境変化を小さくするとともに、ゆとりある柔軟な教育内容によって個性や能力を伸ばそうとするものです。和歌山市も、中心市街地にある本町、雄湊、城北の市立3小学校を統合、市立伏虎中学校との小中一貫校を設立する方針を明らかにしました。義務教育の9年間を再編成しようという背景には、義務教育の9年間で生徒の発達段階が著しく異なること、発達段階に即した教育内容や指導方法を採ることで教育効果が上がるということがあります。中学校の教員が小学生を教えることによって意識が変化し、小中学校の教職員がともに義務教育の担い手であるという責任感が強まったり、教職員の情報交換がしやすく、生徒数減少によってできた空き教室の利用や文化祭・体育祭などの行事を適正な規模で行えるというメリットがあります。英語を初等教育から導入したいという意図も見え隠れしますが。小学生から中学1年生になったとたん、学習や生活の変化になじめずに不登校となったり、いじめなど問題行動や暴力行為が急増するという現象のことを「中1ギャップ」といいます。小中一貫教育は「中1ギャップ」対策に有効だと考えられています。東京都では,品川区が全国に先駆けて導入していますが,今年までに不登校の増加率が全国平均の半分以下になるといった成果も出ています。大阪市でも同じく小中一貫教育をすでに試行していますが,その成果を受け,大阪市教育委員会は,2011年度以降,市立全校で小中一貫教育を導入することを発表しています。
 さて、皆さんは「中高一貫」「小中一貫」「今まで通り」どのようにお考えでしょうか?制度がコロコロ変わることで子ども達が振り回されるのは困りますが、選択肢が広がったととらえるべきでしょうか。国が教育に対してしっかりとしたビジョンを示してどのような将来を見据えているか真剣に考えていただきたいと思います。