子育てに必要なもの 〜大平光代さんの本に学ぶ〜
ウイズ・ア・スマイル 会長 柳岡克子
 2010年のユーキャン新語・流行語大賞で、「イクメン」という言葉がトップテンに入りました。「イクメン」とは育児を積極的に率先して行う男性、育児を楽しんで行う男性を意味します。今までは産休による出産後、女性が引き続き育児を行うのが一般的でした。これに対し、男性が育児休業基本給付金といった制度を利用し、育児休暇をとって積極的に育児を行う男性が増えました。こういった男性を賛美する言葉として出来たのが「イクメン」です。しかし、厚生労働白書によると育休を取りたいと考えている男性は約3割もいるのに、給与が減る、会社の評価が低くなるといった理由から、実際の取得率はわずか1.56%と少ないのが現状です。そこで6月に改正した育児・介護休業法では、子育て中の従業員の短時間勤務や残業免除を企業に義務付けるとともに、父親の育休取得を後押しする内容が盛り込まれました。
 男女共同参画を推進するグループウイズ・ア・スマイルとしては男性が育児に協力し、女性の子育ての苦労を分かち合うことを否定しません。日高地域では、よみきかせオヤジの会(中西哲也代表)という男性グループが子どもたちに絵本の読み聞かせを行ない、積極的に育児に参加している様子がマスコミでも取り上げられ話題となっています。「青年会議所に夫を取られた」とまで揶揄されるほど会議や飲み会で家庭を留守にし、子育てを奥さんに任せきりにしていた青年会議所の若いお父さんたちが立ち上がったのですからこの街も進化したものだと思います。私たちも「男の料理教室」や「男の介護教室」などを開催し、男女が協力し合い、家族が仲良く暮らしていける社会の実現に向かって活動しています。子育てにおいても女性ばかりが負担となるのではなく、親として夫婦が助け合って子どもの成長を見守っていけるのが理想的だと思います。
 いつからか「子どもは社会が育てるもの」という考えのもと保育所を増やすのが善政だという考えが広がっています。しかし、私は、「子どもは親が育てるもの」だと思います。乳幼児期には母親の優しさと温かさが必要であり、それを十分に受けてこそ、その後の人格形成がうまくいくと思います。子どもが小さいうちは、きめ細やかな愛情をかけて育てることが大切ではないでしょうか。私の親の世代は、五人も六人も子どもがいるのが普通でした。衣食住すべてにわたって今のように便利ではなかった時代に、母親は赤ちゃんを背中におんぶして畑を耕しながら育ててきたのです。もちろん子ども手当や育児休業基本給付金などもらえません。当時の可処分所得を物価上昇率を考えて計算しても今より生活は苦しかったと思います。そうなるとお金を払えば少子化対策になるという考えに矛盾を感じます。では今とどこが違うのかを考えた時、核家族が増えたこと、外で働く女性が増えたこと、地域のコミュニティが機能しなくなったこと、晩婚化・未婚者の増加でしょうか。保育所建設も一つの政策かもしれませんが、私は三世代同居をおすすめしたいと思います。母親が働きやすい環境を整備するばかりではなく、子どもが「ただいま」と帰ったら「おかえり」と言ってくれる祖父母の存在が必要です。トイレ掃除を教えてくれ、学校での出来事をおやつを食べながら話す光景が目に浮かびます。祖父母の愛情は塾や学童保育では代えられません。祖父母の方も子どもから元気や刺激をもらうことになり呆けていられないし、夫婦喧嘩も祖父母が緩衝剤となることでおさまり、離婚や子どもへの虐待も減るのではと期待しています。
 最後に家族の絆を大切にし、四季折々の食文化や伝統を尊び、自然の中で日々感謝に満ち溢れた暮らしの中で一生懸命子育てに励んでおられる大平光代さんの本をご紹介させていただきます。『陽だまりの時間』(中央公論社出版)という本です。この著書の中で大平さんは、「子どもを育てるのは親となった者に課せられた「任務」です。(中略)親が三度の食事を作り、それを子どもと一緒に食べ、一緒の空間で過ごす―――それだけで、子どもにとっては立派な教育だと思います。そういう親子関係の中で、日ごろから自然と触れ合い、親しむことを覚えさせていけば、子どもはさまざまな刺激を受け、おのずとたくさんのことを学んでいくことでしょう。」と書いています。友人の裏切りで自殺未遂をした思春期、やくざな世界に身をおいて荒れ果てた時期、目覚めて這い上がろうと必死に資格取得の受験勉強した頃、少年犯罪と向き合った弁護士時代、大阪市の助役としての苦悩の日々などの波瀾万丈の人生を振り返り、4歳となったダウン症の娘悠ちゃんと過ごす今が大平さんにとって一番平穏で幸せな時間ではなかろうかと思います。悠ちゃんの成長の記録とともに、子育てのノウハウが一杯詰まっていて、子どもと向き合って楽しく暮らしている様子が伺えます。