子育て講演会  〜ゼロからのスタート〜
総合学習センター柳岡塾 柳岡克子
 新年を迎え、一番うれしいのは、塾の教え子からの年賀状です。「私たち結婚しました。」という葉書が毎年何通かあります。ここ数年は、かわいい赤ちゃんの写真入りの「家族が増えました。」というのが増えています。塾を卒業して10年以上も経つのに、覚えていてくれるのは教師冥利に尽きます。それに何よりも、やんちゃだった生徒が良き伴侶に恵まれ立派に親となり、家庭を築いていることにほほえましい気持ちになります。生徒だった当時を思い出しながら、頑張って欲しいとエールを送っています。その頃はややもすると人としての道を間違えてしまうのではないかと心配させられた生徒に、振り回されたこともありました。そんな時もわが塾は、成績重視の塾が多い中、人間教育に力を入れてきました。学力はその気になったら年齢に関係なくやる気があれば伸びるものです。だから、やる気を起こさせ、目標を持たせ勉強させました。まず挨拶からはじまり礼儀作法や、社会に出て役に立つ事、人として大切なことを教えてきたつもりです。また、両親とのコミュニケーションを大切にし、家族のあり方や親子の関係についてもアドバイスさせていただきました。高校入試の受験塾ということで、中学3年生は、親と子どもとの距離感が難しく、子どもの心は繊細で微妙なところで行き違いが起こります。私は間に入って潤滑油みたいな役割もしました。最近、子育てに関する内容でしゃべってほしいという依頼がPTAなどから寄せられています。それで講演では私が長年伝えてきた子育てのポイントをエピソードを交えてお母さんたちに話させてもらっています。その中から、ピックアップしてみます。
子育ては胎内教育から始まるので妊娠中は喜びいっぱいで夫婦は仲良くしよう。小さい時から、ダダをこねればかなえてくれるという癖をつけないで辛抱すること、我慢することをしつけよう。間違ったことを人のせいにしないで責任感のある子どもに育てよう。子どもにいいつけたお手伝いを言い逃れても見過ごさないで最後までやり抜かせよう。お礼目当では奉仕の心が育ちません。また人前で叱らないようにし叱るのは時と場所をわきまえよう。人前で叱ると自尊心が傷つけられ、かえって反抗的になります。悪いと分かっていても謝らなくなります。また、叱るのは1回だけ。いつまでも覚えていて持ち出すのは、子どもに恨みを植えつけ、親になじまなくなります。怒ると叱るは違います。感情で怒らないで愛情のこもった叱り方が効きます。サンドイッチ方式(ほめて、叱って、ほめる)が効果的です。親は子の手本となる生活をしよう。例えば「けんかは良くない。」といいながら夫婦げんかばかりだったり「人の影口をいうな。」といって、誰かの悪口を言ってるのを子どもが聞いたら、親の権威や信用がなくなります。約束は破らない。かくしごとをしない。子どものために残せるものは財産ではありません。自分が死んだ後、「あの人の子どもならきっといい人なんだろう。」と言ってもらえるような生き方をしよう。「なぜ」と聞いたら無視しないのが好奇心を育てます。考える能力を身に付けるには答えを教えるのではなく一緒に調べるか、お父さんに聞くように薦めるのがいい。「がんばってお父さんみたいになろう」と父親を尊敬させる。これは一石二鳥で夫も家族のためにがんばって働くようになります。スキンシップを大切にし、よかったら抱きしめるぐらいほめる。朝いってらっしゃいと握手をしながら笑顔で見送ると子どもの心は落ち着きます。兄弟を比べないで一人ひとりの個性を生かし、家族そろって食事をしながらコミュニケーションの時間を大切にしましょう。家庭が子どもにとって居心地のいい場所であるかどうか。笑顔あふれる家庭は母親にかかっています。夢や希望を持った子どもに育てよう。進路は自分で選ばせるのがいい。目標に向かってがんばる事はどんな結果になっても子どもの生きる力となって役立ちます。
また子育てだけでなく人間関係で「うまくいくコツ」を話させてもらっています。例えば"こそ"というコトバを相手につけると、相手への思いやりの気持ちや会話にも愛情が生まれてきます。「私だからこそあなたの妻でいてあげられる」と言うとけんかになります。「私みたいな妻でも、あなただからこそそばにおいてくれるのね」これならうまくいきます。夫婦だけのことではなく、恋人同士や友達、同僚など対人関係すべてにあてはまるのです。「・・・してくれない」と嘆くよりも、見返りを求めずに、まず相手にしてあげること。相手のことを思いやったり、尽くしたり、愛を与えることで心は満たされ、幸せな気持ちになります。そして、それは知らないうちに、愛されて、与えられ、自分に返ってきます。人の悪いところや欠点はすぐに目に付きます。しかし、そんな時でも良いところを見つけて「あの人のここが好き」「ここは見習いたい」と素直にいえる人には自然と人が集まってきます。謙虚な姿勢で、"見習わせてもらおう"という気持ちを持ちましょう。腹の立つことがあっても、「自分はそのような不愉快な思いを人にさせないように気をつけよう。」と思いを変えることです。トラブルが起こった時、相手が悪いと思っているうちは解決しません。運命を受け入れ、反省し、怒られたのではなく教えてもらったと受け止められた時、好転するのです。対人関係で悩む人が多いですがすべてに感謝の気持ちを持ち自分の心のうつわを大きくしプラス思考で喜ぶ事でトラブルがなくなります。
また、幸せの受け止め方についてもお話させてもらっています。私たちは、毎日当たり前のように暮らしています。でも、病気になったとき、初めて健康な体のありがたさに気づき、親元を離れて、初めて家族の大切さを知ります。毎日、ごく当たり前のように思っていたことが、実はとても幸せだったことに気づきます。もっと美人に、もっとお金持ちにと欲を言えばきりがありません。ない物ねだりです。人は皆それぞれ悩みがあるでしょう。親が病気。商売がうまくいかない。子どもが言うことを聞かない。家計が苦しい。それをどう乗越えていくかはご自身の考え方次第なのです。悩んでも解決しません。暗い顔をせず、しんどい時こそ笑顔で吹き飛ばそう。「笑顔に寄りつく不幸なし。」
最後に、母の"ゼロからのスタート"という言葉について話します。「障害のある子どもを持って大変ですね。」と言う人に対して、「生まれた時から一生寝たきりと言われ、ゼロ点だったので100点分の喜びを与えてもらいました。克子が歩いたことも喜び。学校へ行けたこともすべてが喜びでした。」と。「60点ぐらいで生まれたなら後40点分しか喜びを与えてもらえなかっただろうから私の方が幸せです。」と。「気持ちの持ちようです。悲しいと泣いても解決しません。できないとあきらめるのではなく、できることを増やす。できたことを喜ぼう。感謝にあふれた生活に幸せは近づいてくるのです。」と。