和歌山県のタバコ対策 〜和歌山から全国に禁煙を〜
和歌山禁煙教育ボランティアの会 柳岡克子
 昨年暮れ、野村繁雄田辺保健所長が会長を務める紀南たばこ対策推進協議会主催の「タバコを考える公開講座」に参加しました。田辺市ビッグUで開かれた公開講座には一般の方や医療・教育関係者などが集まりました。第1部では、和歌山県「未成年者喫煙防止条例」についての佐本明県議会事務局調査課長の解説と田辺薬剤師会から禁煙サポート薬局についての説明がありました。第2部では3つのグループに分かれ話し合いました。私は、喫煙防止教育についてアイデアや講演方法について情報交換するグループに入りました。
 平成20年4月1日から施行された「未成年者喫煙防止条例」は和歌山県議会福祉環境委員会(当時花田健吉委員長)が提案し2月議会(当時中村裕一議長)で可決成立したものです。未成年者の喫煙は、未成年者喫煙禁止法により禁止されていますが、喫煙に対する社会の寛容さや喫煙の影響についての知識の不足、たばこが容易に入手できることなどから根絶できていないのです。そこで和歌山県は未成年者の健康の保護及び健全な育成に寄与するため全国に先駆けて条例を制定したのです。
全国初といいますと和歌山県教育委員会が平成14年4月1日から実施した「学校敷地内禁煙」もあげられます。これは「和歌山県たばこ対策指針」を受けて、公立学校の敷地内を禁煙化したものです。これまで日本では教育委員会レベルで禁煙の通達が出されたことはありませんでした。
 また、和歌山発の画期的な制度として全国から注目を集めているものに和歌山県薬剤師会が和歌山県健康対策課と連携をとりながらつくった『禁煙サポート薬局』の制度があります。これは県薬剤師会の認定する講座を受けた薬剤師を一定の審査により『認定禁煙支援薬剤師』とし、@認定禁煙支援薬剤師がいるAたばこ販売をしていないB薬局が禁煙薬局C積極的に禁煙支援をする薬局を『禁煙サポート薬局』として県のホームページに掲載しています。これらの薬局では、医師の処方を受けた者にニコチンパッチ等を販売するほか、禁煙の継続方法や、困ったときの対処について日常的な相談に応じます。また、薬局は病院に行くことを躊躇しがちな喫煙者に気軽に立ち寄れる身近な医療機関であるという利点を生かして、『禁煙サポート薬局』でなくても薬剤師は相談にのってくれます。県薬剤師会理事の原隆亮さんは「禁煙外来を紹介するなど他の医療機関とも連携し、タバコをやめたい人の力になりたい。」と話しています。
 県医師会でも禁煙外来だけでなく、保険診療のできるニコチン依存症管理料算定医療機関(県下95ヵ所、1月1日現在)を増やそうということでがんばっています。また、日高医師会では平成17年度から管内小学校、平成19年度からは中学校において学校医が喫煙防止出前授業に出向く活動を行っています。全国的にもこの様な地域医師会組織を挙げての活動は今のところ佐賀県を除き見当たりません。
 禁煙のサポート体制の一つとして、和歌山禁煙教育ボランティアの会(西畑昌治会長)も結成されました。平成15年度から小学校などへ出向いて、子どもたちの喫煙防止のための出前講座をしています。和歌山県内の医師、歯科医師、薬剤師などが中心になって組織する団体です。子どもたちの喫煙は、将来の健康に大きな影響を与えます。子どもたちがタバコに興味を持つ前に、正しい知識を伝えることで、喫煙を防ぐことができればと考えています。
また、インターネットによる関係者のメーリングリストも発足しています。毎日送られてくるタバコに関するさまざまな知識やエッセー、講座の情報などが満載され、同じ意見を持つものどうしのつながりもできました。その中で少し紹介させていただきます。和歌山工業高校奥田恭久教諭です。全校生徒と教職員に向けて発行している「週刊タバコの正体」は平成17年4月6日からスタートし第155号にもなりました。2分ぐらいで読めるA4の紙1枚なのですがタバコの知識が埋まっていて内容が豊富でよく続けられていると感心させられます。
 次は「たばこ問題を考える会・和歌山」代表世話人、畑中孝之さん(63)です。畑中さんは、平成9年、喉頭がんが見つかりました。それで53歳の時に声帯を取りました。首に当てた電動式人工喉頭からロボットのような声がします。16歳前後でタバコを吸い始め、1日約50本吸った時期もあるとのことです。何度も禁煙を試みましたが、がんになるまで止められなかったそうです。喫煙者を非喫煙者と比べた場合、がん発症率が高くなるとされ、咽頭がんは32・5倍に上るという研究もあります。禁煙の重要性を感じた畑中さんは、県内外で講演し、「和歌山禁煙教育ボランティアの会」が行う出前授業にも一緒に行ってくださいます。タバコのせいで障害者になってしまったことを堂々と語る姿に子どもたちの心が動かされるのです。
 日本赤十字社和歌山医療センター呼吸器内科の池上達義先生も平成20年10月1日からの日赤和歌山医療センターの敷地内全面禁煙の実現や11月からの禁煙治療への保険診療の開始に力を入れられました。また、県外からも駆けつけてくださる奈良女子大学の教授で日本禁煙科学会副会長の高橋裕子先生のご尽力も忘れてはなりません。
 和歌山県のタバコ対策には、ご紹介できなかった方々の活動が目に浮かんでくるくらい実に多くの方が、それぞれの立場でがんばられておられます。私も微力ではございますが和歌山禁煙教育ボランティアの会に参加させてもらい、薬剤師としても、子どもたちの健康のためこれからもわかりやすくタバコについてお話していきたいと思います。