キャリア教育の必要性
キャリア開発協会 会員 柳岡克子
 20数年学習塾を経営してきて、生徒と初めて会った時の面接で必ず聞くことがあります。「あなたは何のために勉強するのですか?」と。私は生徒に聞きたいのに、「ここの塾の評判がいいので。ぜひ希望校へ入れたいので。」と横からしゃしゃり出るお母さんがいたり、今はやりの「別に・・」と無理やり連れて来られたかのような答えをする子どもがいたりします。このように本人がしっかりした学習意欲を持たずに入塾すると、厳しい指導やたくさんの宿題についてこれなくなってしまいます。反対に少しばかり素行が悪くても、「高校へ行きたいから。」とか「○○になりたいから。」とか将来の夢なり希望なりを語れた子どもは、今社会人としてりっぱに働いています。
 この度、14日に和歌山工業、22日に和歌山東高校の『キャリア教育』の講師として今までの経験なりをお話させてもらうことになりました。講演ではあちこちの高校に行かせてもらい和工も初めてではありません。
平成18年版労働経済白書によると、平成17年でフリーター(希望する仕事の形態が「パート・アルバイト」で家事も通学も就業内定もしていない者)は201万人。ニート(通学も仕事もしておらず職業訓練も受けていない人々)は64万人となっています。このように現代は、少子高齢社会、産業・経済の構造の変化、雇用の多様化や流動化などを背景とし、子どもたちの進路をめぐる環境は大きく変化してきています。それに対して、学校での教育活動が「生きること」や「働くこと」と疎遠になっていたり、十分な取り組みが行われてこなかったのではないか?ということで、『キャリア教育』の推進が行われてきました。そして、平成19年5月に内閣府特命担当青少年育成・文部科学・厚生労働・経済産業各大臣を構成員とした"キャリア教育等推進会議"において、"キャリア教育等推進プラン"が策定されました。『キャリア教育』は、児童・生徒一人ひとりの勤労観や職業観を育てる教育というように定義されています。具体的には、望ましい職業観や勤労観及び職業に関しての知識や技能を身に付けさせるとともに、自己の個性を理解、主体的に進路を選択する能力や態度を育てる教育です。将来の生き方にかかわる問題として、生徒が将来への夢や希望をはぐくみ、その実現に努力する指導・援助として、学校が『キャリア教育』に取り組むこととなったのです。学校教育は、人格形成、人間形成、全人的な教育を担う場です。"世の中にいっぱいいろんな仕事がある"というようなことについて、充分な理解させ、子どもたち一人ひとりが自分の個性や能力を自分で発見し、どのようにより良く生きていくか、またどんな仕事を自分が選んでいけばいいのかということについての基本的な基礎的な指導が必要なのです。
 講演では、「あなたの命はかけがえのないたった一つのものだから大切にしよう。」とか「何のために勉強するのか、を真剣に考えましょう。」と話していますが、今回は担当の教師を通じて週1回の授業の中で具体的にワークシートに記入してもらい自分自身を見つめなおしてもらうということから導入してもらいました。
 
 小さい頃なりたかった職業は何ですか?
 今、あなたの夢は何ですか?
 今、あなたが夢中になっているものは何ですか?
 自分が幸せだなと感じる場面、状況、内容を書いてください。
 どういう時達成感を感じますか?
 ほめられてうれしかった想い出を書いてください。
 今までで一番がんばったと思うことは何ですか?
 自分はどんな職業に向いていると思いますか?
 うれしい時、喜びをだれに話したいですか?
 何のために仕事をすると思いますか?
 あなたにとってお金とは何ですか?
 お金で買えないと思うものをあげてください。
 尊敬する人をあげて、その人のどういうところを尊敬しているのか書いてください。
 あなたが「社会のために役に立っているな」と思う職業をあげてください。
 自分の長所をあげてください。
 周りの人はあなたをどう思っていると思いますか?
 学生と社会人の違いをあげてください。
 自立とは何だと思いますか?
 
 このような質問に答えていくうちに、今までじっくり考えてこなかったことや自分自身について真剣に考えるきっかけになればと思います。一人ひとり違ってあたりまえで答えはありません。
次のワークはかかわっている人をあげてもらいました。
ごはんを食べるまでにかかわったと思う人をあげてください。
ソックスを履くまでにかかわったと思う人をあげてください。
おなかが痛くて病院で検査をして薬をもらうまでにかかわったと思う人をあげてください。
レンタルショップでDVDを借りて歌手のコンサートを見るまでにかかわったと思う人をあげてください。
 このワークをすることで衣食住さまざまな人が自分の身の回りでかかわっていることに改めて気づくのです。
 
 3回目のワークは具体的な職業についての知識を探ります。
 
 公務員といわれる仕事をあげてください。
 自営業の良いと思うところをあげてください。
 サラリーマンの良いと思うところをあげてください。
 資格を活かして働いているなと思う職業をあげてください。
 
 わが塾では授業のあいまにこのようなワークをしながら学習意欲を高めています。この手法でコーディネートしてほしいと5回ぐらいの講座を頼まれることもあります。今回の和工では職業人を学校に招き仕事の話をしてもらうカリュキラムを作っていく計画だそうです。石田ゆうすけさんなど著名な方に交じって私もお話させてもらうことになったわけですが、わが塾で作成したこのワークシートをもとに話を進めていきます。
 次の段階として、生徒がグループで職場訪問をします。訪問前の事前学習では、「あいさつ」「身だしなみ」「礼儀作法」「聞きたいこと・見たいこと」を整理させ、目的を持って参加することを指導します。事後には、単なる感想ではなく「新しく学んだこと」「参加する前と後での変化」など具体的に書いてもらいます。最後に、保護者や企業・NPO・地域の人々との意見交換会なども提案していきたいです。
 さまざまな職業について知り、体験することによって自分は何をしたいか、何に向いているかをしっかり考えて将来に対する目標を持ちます。目標が持てたら、目標に向かってがんばることができるのです。多くの子どもたちの教育にかかわってきたものとして、一人ひとりに生きる力をつけてもらい、これからの子どもたちの夢や希望の実現へのお手伝いができれば幸いです。